日本は環境分野で大きく世界に後れをとっているというのはこれまでにも言ってきたとおりですが、そんな中でも国内には再生可能エネルギーの導入などに積極的に取り組み自治体がいくつかあります。今回はその中でも特に有名な長野県飯田市の事例をまとめてみたいと思います。
そもそも、僕がこの長野県飯田市の事例に行き着いたのには自分自身の関心があります。元々地域づくりに関心があった僕は大学で環境分野、特にエネルギー関連と「地方創生」の繋がりに関心を持ち、再エネ等の導入によって地域が環境的にも経済的にも持続可能性を高めることができるのではないかとの考えを持つに至りました。そんな中、とある授業で長野県飯田市の事例が紹介されたのです。最初に授業で聞いた時は「そのような先進的な取り組みがあるのか」程度で記憶にとどめていたにすぎませんでしたが、三年生になって本格的に再生可能エネルギーやエネルギー自治等について調べるうちに、再度飯田市の事例が僕の前に浮かび上がってきました。特に太陽光発電事業に関して言えば日本のトップランナーと言うべき地域なので、これは一度しっかり調べてその知識を吸収せねばならない、という事で今回色々と資料や本を探した次第です。一週間ほどで調べた内容をコラムに載せるためにかなり省略してまとめましたので至らない点はあるかもしれませんが、文末に参考にした資料やウェブサイト、本なども付記しておくのでよかったら見てみてください。
さて、本題に入りましょう。長野県飯田市は長野県の南端に位置し、人口約十万人で森林面積は八割ほど。標高が高く比較的冷涼な気候で、年間日照時間が長いことから太陽光発電に適した土地と言われています。飯田市の太陽光発電等の事業が軌道に乗るまでの経緯については、下に紹介している「『エネルギー自治』で地域再生! 飯田モデルに学ぶ」という本に分かりやすくまとめてあるので、詳細はそちらに任せます。簡単に紹介しますと飯田市では市民有志が環境に関わる取り組みをしていた事もあり、元々市民の環境意識が高かったそうです。中心市街地の飲食店や地球温暖化対策に関心があった地元市民がそれぞれ取り組みをしており、それら別々の取り組みが集まったような形で、太陽光発電を中心にバイオマスや小水力など幅広い活動に発展しました。
現在太陽光発電事業の中核を担っているのは「おひさま進歩エネルギー株式会社」と「おひさまエネルギーファンド株式会社」です。「おひさま進歩エネルギー株式会社」は「エネルギーの地産地消」を掲げ、「おひさまエネルギーファンド」にて募集した市民の出資金を基に「創エネルギー」事業(市民共同太陽光発電所の設置。南信州の豊富な森林資源を活用した木質燃料の利用推進など)、「省エネルギー」事業(各施設での総合的な取り組み)、再生可能エネルギー・省エネルギー設備設置のコンサルティングなどを行っています。
「おひさまエネルギーファンド株式会社」は、おひさま進歩の市民共同出資募集会社であり、全国から出資を募り初期費用無しで太陽光パネルを設置できるシステムを構築しました。このシステムには地域の金融機関である飯田信用金庫も参入し、飯田市からの財政支援も入っており、地元で集められた資金がしばらくして地元に再び戻ってくるという地域内での経済循環を構築した点で高く評価されています(ただし「おひさまエネルギーファンド」は去年行政処分を受けて、三ヶ月の業務停止命令と業務改善命令を出されるなど、経営に一部問題があったことが判明しています。現在は経営陣を刷新し再出発しています)。
これらの企業も元は地域のNPOから発展しており、民間が主体となって太陽光発電事業を軌道に乗せていったことが良く分かります。
飯田市で取り組みは民間が主体となって行っている事が特徴として挙げられますが、行政の支援策も先進的だったと言われています。ここでは二つ紹介します。まずは行政(公用)財産の目的外使用の許可です。行政財産は行政上の特定の目的のために行政が所有・使用しているもので、その中でも庁舎や市町村立図書館などは公有財産と位置付けられています。地方自治法の行政財産の管理及び処分に関する項目では「行政財産は、次項から第四項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない」とされており、発電事業のような営利目的での目的外使用の許可は難しいとされてきました。ですが飯田市は太陽光発電事業が広く市民の利益=公益に資するものであると捉え、行政財産の目的外使用を全国に先駆けて認めました。こうした動きは東日本大震災以降、全国的にも加速し、2013年には総務省も「行政財産の目的外使用許可」についてという文書を公開し、太陽光発電用のソーラーパネルを設置するのは「行政財産の効率的利用の見地から、その用途又は目的以外の 使用を認めることとした制度の趣旨に沿うもの」と認めています。今でこそ太陽光パネルが市役所などの屋根に取り付けられているのはあまり珍しくありませんが、その先駆者が飯田市だったのです。
もう一点は地域環境権条例の制定です。これも全国に先駆けて飯田市で取り組まれました。正式名称は「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」と言い、飯田市はこの条例が整備されたことによって、次のような支援が受けられるようになるとしています。まず住民団体が作成した発電事業の計画に対し、様々な分野の専門家が構成する「飯田市再生可能エネルギー導入支援審査会」から、安定的な運営のために必要な助言と提案を無料で受けられます。そして事業の公共性と経営安定性を飯田市が公的に認証し公表することで、事業に信用力を生じさせ、事業の立上げ資金を充分に持たない団体であっても、地域金融機関等からの資金の貸付けや市民ファンドからの資金の提供が受けやすくなるようになります。さらに「飯田市再生可能エネルギー推進基金」が設置され、この基金から、事業の建設工事の発注のために必要となる調査費用を、無利子で貸付けを受けられるという事です。
飯田市の事例は地域特有の好条件が揃っていた事もあり、そっくりそのまま他の地域でまねる事はもちろん不可能です。そもそも日照時間が全国平均より長く、太陽光発電に適した土地であったという土地柄がありますし、下記で紹介している論文や本の中でも紹介されている通り、公民館活動が盛んで住民自治力が高かったという背景もあります。平成30年度版の「飯田市公民館活動記録」によれば、市内20の地区公民館に非常勤の公民館長と常勤専任の公民館主事が配属されているのですが、さらにその下に103の分館があり、そのうち102館については市民の手で運営されているそうです。
一方で行政が積極的に市民をサポートする側に回り、関連条例や屋根貸しという周辺環境の整備をいち早く行った事などは参考になる点が数多くあるように思います。また民間の側でも地域金融機関を通じて地元資金が地元に投資され、年数を経て利子を伴い再び地元に戻ってくると言う地域内資金循環の仕組みを作り出しており、電力を外から購入するために地域外に出ていたお金を地域内にとどめることができています。こうした仕組みは年間7000万円の経済効果を地域に生んでいるとされており、学べる点は多いと言えるでしょう。
実はこの飯田市の取り組みを調べていく中で一つの論文を見つけました。タイトルは「再生可能エネルギーが日本の地域にもたらす経済効果」です。他にもいくつか再エネと経済効果に関する資料を見つけました。上述の「飯田市での取り組みは7000万円の経済効果を生んでいる」というのもその中に書いてあったものです。なんとも僕のやろうとしていたところにピッタリの内容ですから、次はこの論文や関連する論文を読み込んでいきたいところです。そして是非自分でも経済効果を計算してみたいですね。同時並行で石川県珠洲市の取り組みやその他の国内における再エネ(主にバイオマス)先進地、分散型エネルギーシステムに関する事なども現在色々と調べている所ですので、近いうちにコラムにまとめたいと思います。夏頃には事例紹介だけでなく、僕自身の考えも織り込んでコラムを書ければ理想ですかね。それまでは、こんな感じで紹介記事が多くなってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。少しずつ自分の考えも散りばめていけるよう頑張ります!
今回の内容のうち、地方自治法関連や地域環境権条例については僕自身がまだ勉強途中である事もあり、説明が不十分であったり認識が間違っている部分があるかもしれません。その際はご指摘いただけますと幸いです。飯田市の取り組みの評価については飯田市が有名な事もあり、論文等もかなり出回っていますので機会を見つけて僕も他の論文にも目を通していく予定です。
参考文献等
・「環境未来都市 環境モデル都市 選定都市のご紹介 飯田市」
・「『エネルギー自治』で地域再生! 飯田モデルに学ぶ」岩波書店(2015)諸富徹
・飯田市HP「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例について」
・飯田市HP「飯田市の概要」
・おひさまエネルギーファンド株式会社に対する行政処分について(関東財務局ウェブサイト)
・「行政財産の目的外使用許可について」(総務省)平成25年6月26日
・地方自治法第二編第九章第九節第一款第二百三十八条の四 e-Govより
・「飯田市における地域主導・市民協働型再生可能エネルギー事業の展開(現地調査報告)」
2015年 開発論集(95): 133-155 浅妻裕
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