地域分散型エネルギーシステムとは

 今世界中でエネルギー分野の変革期が到来しています。これまでのような枯渇性資源に依存した電力システムではなく、持続可能で環境に配慮したエネルギーシステムがヨーロッパ、特にドイツを先頭に整備されようとしているのです。日本でもFIT(固定価格買取制度)の見直しや電力会社の送配電部門の分離など、電力システム改革が進みつつあり、関連法の整備も進行中です。今現在僕も数冊の本を読みながら勉強中ですが、今回はその中でも「地域分散型エネルギーシステム」とい本を読んだうえでのコラムになります。


 今回はの大きなテーマはエネルギーシステムです。キーワードは「分散型エネルギー」。これまで国の事業であった電力事業が地方自治体の事業に代わっていくのではないか、というお話です。さらに言えば、この分散型エネルギーの考え方の中には地域の持続可能性を高めたり、地域経済をより活性化させることができると考えられており、地域づくりを考える上でもホットな話題となっています。


0.そもそも今のエネルギーシステムって?

 さて、分散型エネルギーについて説明する前に、まずは現行のエネルギーシステムである「大規模集中型エネルギーシステム」についておさらいしておきましょう。

 大規模集中型エネルギーシステムとは、その名の通り大規模な火力発電所や原子力発電所を中心に、送電網を地方まで通して電力を供給する仕組みです。日本はこれまで大手10社が電力事業を一手に引き受け、大規模発電所で発電された大量の電気を中央の管理によって、発電所から遠隔地までいきわたらせるこのシステムを採用してきました。


 電力会社は安全確保(S)を前提として三つのE、エネルギーの安定供給(Energy security)、経済性(Economy)、環境保全(Environmental conservation)を同時に達成する事を重要視しています。火力発電などは需要に合わせて発電量を柔軟に変えることが可能で、原子力は準国産エネルギーとも言われ、エネルギーの安定供給や経済性などに資するものであると考えられてきました。また環境保全に関しても、CO2を排出しない原子力発電が有望とされてきたのです。


1.「分散型エネルギー」が生まれた背景

 しかし、この「大規模集中型エネルギーシステム」に対する認識は東日本大震災や2018年の北海道地震などの経験によって大きく変わりました。東日本大震災では福島原子力発電所の停止によって、大規模集中電源の一つである原子力発電所の停止し、供給力不足や計画停電による需要抑制を行わざるを得ない状況が発生しました。また福島原発事故を受け、これまで二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーと位置付けられてきた原子力発電の立場も無くなります。北海道地震でも、当時北海道全域の電力需要の半分を供給していた苫東厚真石炭火力発電所が運転停止した事が原因となり、全域停電という事態に陥っています。


 こうした経験は既存のエネルギーシステムの大前提である安全確保が達成されていない事を明らかにし、エネルギーの安定供給すらも、場合によっては達成できない事実を社会に示しました。さらに大規模集中型エネルギーシステムが化石資源とウラン資源と言う枯渇性資源の大量消費を前提としており、持続可能性が低いと考えられることから、長期的視野に立ってみた時、本当に経済性に優れていると言えるのかという疑問も浮かび上がります。また環境保全の面から見ても火力発電所が大量の二酸化炭素を排出している事は周知の事実であり、既に地球規模でエネルギーの大量消費が要因になっている気候変動や大気汚染などの問題が顕在化している事も考えると見直しが必要と言えるでしょう。


2.「分散型エネルギー」とは

 「分散型エネルギーシステム」は、こうした背景をもって日本でも少しずつ広まろうとしています。ここからは僕の読んだ本を参考にしながら、分散型エネルギーシステムについて簡単に解説していきます。


 まず分散型エネルギーには自家発電、再生可能エネルギー、新技術、省エネルギーの4種類があります。自家発電は身近なものでは、個人宅で停電時などにガソリンなどを使ってエンジンをまわして発電するエンジン式発電機をイメージしていただければよいと思います。再エネは太陽光や風力など。新技術は燃料電池や蓄電池といったもので水素自動車の動力源としての開発も進められています。省エネルギーはそのままの意味です。


 分散型エネルギーとは要するに「比較的小規模で、かつ様々な地域に分散しているエネルギーの総称であり、従来の大規模・集中型エネルギーに対する相対的な概念」(資源エネルギー庁)という事になります。地域の中に広く薄く分布し、電源となる小規模な発電所が多様いあるのが分散型エネルギーシステムの基本です。


3.「分散型エネルギーシステム」と地域のつながり

 僕がここで分散型エネルギーについて紹介するのは、分散型エネルギーは地域づくりに活かすことができるからに他なりません。分散型エネルギーはこれまで国の事業であったエネルギー政策を地方自治体の事業へとシフトさせる考え方でもあるのです。


 分散型エネルギーは比較的初期投資が安いといえます。再エネでいうと太陽光パネルや小型風力であれば、少し家計に余裕のある家庭であればだれでも設置可能です。つまり地域住民が主体となって事業立ち上げ可能であり、さらに地域資源で得られる利益を地域に還元する事も可能です。


 また、地域主体によるエネルギー事業の効果は地域全体に波及すると考えられます。特に木質バイオマス発電などはその顕著な例です。地域でとれた木材を発電や熱として利用する事で、地域内に林業やバイオマス関連の雇用を生み、さらにこれまで地域外に流出していた燃料費を地域の中にとどめることができます。地域の人、金、資源が有効活用され地域経済の好循環につながるのです。


 少し広い視野で見ると、分散型エネルギーシステムの整備は集中型エネルギーシステムで問題となっている負担の格差の是正にもつながる事が見えてきます。原子力発電所などは地方に設置されますが、その電力を使うのは大半が都市部です。この場合、地方が原発事故などの甚大事故リスクを抱えるにも関わらず、都市部はそういったリスクを一切抱えずにその利益である電力を享受できるという状況が生まれます。これまではこの格差の是正のために、原発などが立地する自治体にはいわゆる電源三法交付金が支払われてきたわけですが、福島原発事故のような甚大事故のリスクをお金で解決するのには無理があると言わざるを得ません。


4.分散型エネルギーシステムの課題と展望

 分散型エネルギーの中で、特に再エネでよく問題視されているのがエネルギー密度の低さです。仮に火力や原子力と同じだけの発電量を得ようとするならば広大な敷地が必要になります。これに関連して、都市の巨大な電力需要を都市だけで発電するのも困難です。また九電ショックや北海道地震における大規模停電で明らかとなった広域地域間の連系線や送電網の整備不足も重い課題としてのしかかっています。分散型エネルギーの中でも再エネは天候によって左右されるものも多く、電力の安定供給といった意味では心もとないのも事実です。


 こうした課題に対応するため、日本では少しずつ電力システム改革が進みつつあります。冒頭で上げた送配電部門の分離やFITの見直しなどがその一例です。また再エネで問題視されているエネルギー密度にしても、逆に言えばどこの地域にもエネルギー源となる資源があるわけですから、それぞれの地域で太陽光や風力、地熱などどういった資源が最も有効に活用できるかを見極めていけば、問題ありません。また、分散型エネルギーには省エネも含まれます。家での節電を心がけたり、新しい家電を買うことで電力消費量を抑える事も分散型エネルギーシステムの一部と言う事も可能なのです。


 このように、分散型エネルギーシステムでは一人一人の節電や省エネから、屋根等での太陽光パネル、小型風力、地域産業として木材やゴミを活用したバイオマス発電・熱利用など、様々な発展を展望することができます。政府も分散型エネルギーを地域活性化策の一つとして捉えており、災害時など非常時のエネルギー供給ちとしての役割に加え、熱の有効活用による高いエネルギー効率の実現、需要地で地産地消することによる送電ロスの低減等などによる、経済効率性の向上なども期待されています。


 この分散型エネルギーに関する具体的な取り組みの一例は、前回のコラム「エネルギー自治最前線! ~長野県飯田市~」で簡単に紹介していますので、そちらも読んでいただけるとより理解がしやすいかと思います。今後もバイオマスを中心に、日本の先進事例をコラムにまとめる予定です。また、今回主に参考にさせて頂いた書籍を下記に紹介しておきました。分散型エネルギーシステムについての基礎知識を得る上で、文系の僕でも十分読むことができましたので入門書として是非ご一読ください。

参考文献

・「地域分散型エネルギーシステム」(2016年)日本評論社 監修:植田和弘

・「文系のためのエネルギー入門 : バークレー白熱教室講義録」(2013年)早川書房 リチャード・A・ムラー 杉田晶子訳

・「北陸電力グループの現状2018」(北陸電力パンフレット)

・「かんでんエル・メッセージ」2019年3月(関西電力パンフレット)

環境ビジネスオンライン>環境用語集>九電ショック

日本原子力文化財団原子力総合パンフレットweb版>地域振興と原子力損害の賠償 >原子力施設と法律

「分散型エネルギーについて」(平成27年)資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会(第6回会合)資料1

など

地域学・どっと・こむ

金沢大学地域創造学類にて地域づくりについて本気で学ぶ現役大学生です。発展途上のサイトでまだまだ試行錯誤しながらですが、月に数本のコラムを投稿し、地域について考えるきっかけやアイディアが生まれるきっかけを創っています!

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