バイオマス利用先進自治体まとめ(概要版)

 日本で地域活性化の手段の一つとして注目を集めているバイオマス。今回はその中でも岡山県西粟倉村、真庭市、北海道下川町の三つの事例を紹介していきながら、日本のバイオマスの展望を見ていきたいと思います。なお、今回のタイトルに「概要版」とある通り、これから書く内容は、各自治体の総合計画(地方自治体の行政運営上、最上位にあたるもの)などからザーッと情報の上澄みを抜き取っていったものになりますので、その点はご承知おきください。より詳細な部分については別のコラムで、他の自治体の取り組みと比較研究する際に掘り下げていきたいと思います。


0.そもそもバイオマスとは

 まずはバイオマスの定義についてです。国が定めるバイオマス活用推進基本法では、バイオマスの定義を「動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く。)をいう」としています。バイオマスの分類方法はいくつかありますが、経済産業省はバイオマスの分類について、その性質から乾燥系、質純系、その他の三分類に分け、資源の種類として木質系、農業・畜産・水産系、建築廃材系、食品産業計、生活系、製紙工場系の六種を設定しています。


 バイオマスが重要視される背景の一つにカーボンニュートラルという考え方があります。これは簡単に言えば二酸化炭素の排出と吸収の合計が0になるというもの。バイオマスは燃焼すると二酸化炭素を排出します。しかし、その二酸化炭素は元々は植物などが成長する過程で大気中から吸収したものなので、トータルとして二酸化炭素の量は変化しません。バイオマス燃料の場合は現在吸収された二酸化炭素を再び現在に排出していると考えます。一方で化石燃料は数億年前に吸収された二酸化炭素を現代に一気に排出しているという考え方になり、現在世界の二酸化炭素の排出と吸収の合計は排出がかなりプラスになっているという事になります。


 また、日本においてバイオマス関連事業が注目されている理由として、地域活性化との繋がりがあります。この後、先進自治体の事例を紹介する際にも解説しますが、特に木質バイオマスにおいては地域の林業を活性化と絡める事も可能ですし、可燃性のゴミや家畜の糞尿などの廃棄物の有効利用もできるので、バイオマス関連事業を通した地域活性化を考える自治体も出てきています。


 バイオマス発電に関しては、今後再生可能エネルギーを研究していく上ではもう少し深く突っ込んでいきたいと考えていますので、今度改めてコラムにしたいと思います(なんか毎回今度今度といっていますが、それだけネタは豊富にあれど、コラムとして作り込むのに時間がかかっているという事です…(;^_^A)。

 さて、今日の本題はバイオマス関連で全国的に有名な三つの自治体を紹介する事です。三つすべてがバイオマス発電をしているわけではありませんし、それぞれかなり特徴が異なる取り組みを行っていますので、調べながら「地域性があって面白いなぁ」と感じました。では、さっそく一つ目から参りましょう。


1.岡山県西粟倉

 西粟倉村(にしあわくらそん)は岡山県北東部の先端、兵庫県と鳥取県とも隣接する場所にある小さな自治体です。人口は1520人(平成22年)、総面積は約58㎢でそのうちの9割以上が森林です。また、昭和及や平成の合併には参加せず、明治以降123年間にわたり単独自治体として独自に村づくりを発展させてきた地域でもあります。


◆西粟倉村百年の森林構想まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015~2019)

 上記の戦略にはバイオマスなど再エネに関連した項目が掲げられています。

基本目標2では「地域の人材で新たな産業を育てる」とあり、②森林等を活かした産業の創出

の中で「低炭素なむらづくりの実現」を目指すとしています。小水力・薪ボイラーなど地域資源を活かした、バイオマス産業都市を目指した取り組みを実施していくそうです。

 西粟倉村で面白いのが「百年の森林構想」と言うものです。総合戦略の基本目標5でも、「百年の森プラットフォームをつくる」としており、様々な村が一体となって、50年先、100年先を見据えた森林運営を続けていく事を考えています。


 「低炭素な村づくりの実現」に向けて、実際に導入しているものは、薪ボイラ685kW、水力297.3kW(他に計画中199kW)、太陽光104kW、そして地域熱供給で計画中のものが約600kWなどです。特徴は、小規模自治体なりに小規模なバイオマス熱利用や再エネ活用が盛んであるという点。バイオマス関連で中核になっているのが「株式会社 sonraku/ sonraku Inc.」という企業のようで、現在は温泉等での熱利用を手掛けています。ただ課題として熱需要が高い冬に燃料である薪が乾燥しにくい事や、薪を5,6時間に一回投入する必要があるようで、人件費なども高騰し、収支が厳しい面もあるようです。


 バイオマス熱利用だけにとどまらず、小水力や太陽光などその他の再生可能エネルギーについても力を入れています。村のエネルギー需要の半分程度を再生可能エネルギーで賄っているとの情報もあり、非常に取り組みが進んでいる事がうかがえます(ただし元データ入手できていませんので確認中です)。こうした自然を大切にする姿勢や木材を活かした様々な取り組み、住民と行政、林業関係者などが一体となった森林保全活動や再生可能エネルギーへの取り組みが注目され環境モデル都市に選定されています。


2.岡山県真庭市

 真庭市は今回紹介している自治体の中でも最も大きな自治体です。人口は45280人(令和元年6/1現在)で、総面積約828k㎡のうち約8割が森林です。北部は酪農が盛んで、中南部は農林業が盛んな地域となっています。とりわけ良質なスギ・ヒノキを産出する林業は、古くからこの地域の雇用を支えてきたとされており、現在でも多くの伐採事業者や木材加工会社、市場などが操業しているらしく、木質バイオマス産業の中心地になっています。また、この後に紹介するような様々な取り組みが評価され、SDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業にも選定されている先進自治体です。


 そんな背景もあって、真庭市では1993年頃から地元事業者がバイオマスへの取り組みを始めていたそうです。市はバイオマスエネルギー利用のメリットとして燃料コストの削減を上げており、例えば灯油一リットル9000kcalが85円であるのに対し、ペレットでは2キロ70円、チップでは3キロ45円で済むとしています。市内全エネルギーの11%を木質バイオマスで自給しているそうです。木質系以外のバイオマス利用も着実に進めているようで、市が公表しているデータによると、廃棄物系バイオマス利用率は88.5%(木質系廃材91%、浄化槽等汚泥・下水汚泥100%、家畜排せつ物81%)、未利用バイオマス(稲わら、もみ殻、未利用木材など)利用率は38.2%となっています。


◆真庭バイオマス発電所

 真庭市の取り組みで最も有名といえるのはバイオマス発電所といえるでしょう。僕の個人的な興味もこれに関連して地域が本当に潤うのかどうか、という点です。真庭バイオマス発電所は最大出力1万kWで年間発電量は7290万kWh。これは一般家庭2万2000世帯分に相当し、真庭市の世帯数(約1万8000)を上回っています。発電した電力はFIT(固定価格買取制度)により、30円/kWhで全量売電しています。燃料として必要な一般木材5万4000トン、未利用木材9万トンは全て現地調達です。未利用木材(森林における立木竹の伐採又は間伐に由来する未利用の木質バイオマス)については真庭市内の間伐材などの発生量で、一般木材(木質バイオマス又は農産物の収穫に伴って生じるバイオマス)については地元の銘建工業の製材工場から出る端材(製材過程で出る余分な切れ端のようなもの)で大半を賄えるとしています。発電所に勤務する15人は全員地元雇用であり、地域の雇用創出にも一役買っています。


 事業に必要な資金のうち23億円は中国銀行を中核とする地元の金融機関から融資を受けました。加えて農林水産省からバイオマスの有効利用を推進するための補助金を14億円、真庭市から雇用助成金など2.6億円の交付を受けたことで、資金調達を円滑に進めながら地元からの投資を地元に還元する仕組みも持っています。地元金融機関からの融資は以前紹介した飯田市の事例とも共通している部分です。


◆バイオマスツアー

 真庭市においてもう一つ特徴として挙げられるのがバイオマスツアーです。真庭観光局が運営母体で、「顔の見える産業観光」をテーマに2006年にスタートしており、バイオマス事業者や飲食、宿泊、まちづくりの担当者たちも含めた協力体制を築き、今では年間約3000人を受け入れるツアーにまで発展しています。他の自治体もやってはいるようですが、バイオマスツアーに関しては真庭市の情報が最も充実していました。


3.北海道下川町

 下川町は人口3293人(令和1年6月現在)、面積約664㎢で森林面積は約9割の人口密度が低い自治体です。一方でその取り組みは先進モデルとして「環境モデル都市」認定、「環境未来都市」選定、「森林総合産業特区」指定、「バイオマス産業都市」選定など複数の実績を持ちます。

 下川町の特徴は総合計画の中で下川町のあるべき姿について、SDGsと関連づけグローバルな視野で計画を策定している点です。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標で、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。下川町は「下川町のありたい姿」として掲げる7つの項目それぞれが、SDGsの17の目標のどれに位置づけられるかを併記しています。


◆木質ボイラ

 木質ボイラとは簡単にイメージするのであれば、普通のボイラーの燃料が化石燃料から木質系バイオマスに変わるのだ、とイメージしていただければよいと思います。導入設備は市内11基(2015年時点)に及び、市のHPによると平成25年度、木質ボイラを導入した事による直接的な燃料費の削減額は約1774万円。二酸化炭素排出量は1220トン減らすことができたとしています。平成29年度現在では、公共施設の熱需要の6割を賄っているそうです。


◆北海道バイオマスエネルギー株式会社(北海道電力ウェブサイトより)

 三井物産株式会社が80%、北海道電力が20%出資する会社です。燃料は木質バイオマスで北海道内未利用間伐材を原料とするペレットをガス化して燃焼させます。発電出力は1815kW。2019年5月稼働予定とされていますが、僕の調べた限りではその後の情報にたどり着けず、現在稼働しているかどうかは確認できておりません。


◆FSC森林認証

 木質バイオマスの燃料となる下川町の森林はFSC森林認証を受けています。これは適切な森林管理と適切に管理された森林からの木材・木材製品であることを認証する国際的な認証制度であり、過剰な伐採などを行っていない事を証明しています。北海道バイオマスエネルギー株式会社で必要な木材15000㎥ですが、下川町で三分の一を、それ以外は事業者が周辺から都合をつけるとしています。町は年間4800万円の経済波及効果を推定しており、12名の雇用創出や税収の年間1500万円増などの地域への効果を見込んでいます。

4.簡単な考察と今後の課題

 まず最も分かりやすいのはいずれの自治体も森林面積が9割近いという共通点がある事です。特に真庭市は林業が盛んと言われてきた地域ですし、西粟倉村にしても周りがほとんど山、という環境があります。このため、今回紹介した自治体がいかに先進的な事例であるとはいっても、そっくりそのまま他の自治体でも真似ができる訳ではありません。また下川町と真庭市は大手電力への売電に依存してしまっている部分があるのではないか、とも思えます。まだ資料をしっかりと読み込んだわけではないので、ハッキリと判断はしませんが現段階でいくつか資料を読んだ限りでは、双方ともにFIT終了後の事業継続性が不透明で、具体的に今後どうしていくのか未知な部分が多いというのが現状のように見えました。せっかく活性化させた地域の林業が、発電所が止まった事で再び廃れてしまうことがないよう、しっかと考えていかなければなりません。


 せっかくバイオマス発電所を作って木材を利用するとなっても、海外からの輸入材を使用するという本末転倒な事も起きています。最近では世界規模でバイオマス燃料の争奪戦が起こっている、などと言うニュースも報道されており、日本企業も海外で生産、加工したバイオマス燃料を輸入するなどの対応を検討しているようです。これでは地域活性化の役に立っているのは雇用創出と税金収入増くらいで、地域全体の活性化には中々至りません。そもそも冒頭でも述べた通り、特に木質バイオマス発電が話題になったのは衰退した林業を活性化し、日本の里山を守ることができると謳われたからです。それがここにきて経済性やコストの問題でないがしろにされたのでは、真に地域のためとは言えません。むしろこれまでの化石燃料と同じように、燃料を海外に依存する体質から抜け出せず、資金の域外流出を止められない状態が続いてしまう事が懸念されるのです。


 バイオマスを巡る状況は決して明るいとは言えません。これは現段階で僕が感じている結論です。新たなベースロード電源として水力発電などと同じような役割を期待してはいますが、先述したような課題を解決できない限り、地域がバイオマスを導入する意味はないと思います。その一方で、やはり再生可能エネルギーと呼ばれる分野の中では、最も地域活性化と深いつながりを持っているのもバイオマスだと思います。再生可能エネルギーを研究するものとして、こうした様々な状況に目を光らせ、考えを広げていきたいところです。


地域学・どっと・こむ

金沢大学地域創造学類にて地域づくりについて本気で学ぶ現役大学生です。発展途上のサイトでまだまだ試行錯誤しながらですが、月に数本のコラムを投稿し、地域について考えるきっかけやアイディアが生まれるきっかけを創っています!

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