参議院議員選挙が終わりました。選挙期間中、どうにもエネルギー政策について言及している政党は少なかったようで、この分野を研究している一学生としては少々不満を感じてしまいます。年金を始め社会保障や増税に世間の注目が集まっているのは分かりますが、世界的に大きな問題とっているエネルギー政策についても、もう少し議論が起こっても良いのではないでしょうか。日本でも原発という問題があるわけですし、争点になっても良いと思っていたのですがね…。
まぁそれはそれとしまして、今回は僕が研究を始めてから今日までの間にエネルギー分野で注目すべき動向について、その一部を紹介します。エネルギー分野は刻一刻と変化しているため、こうした最新の動向についても目を光らせておかなければすぐに置いてきぼりを食らってしまいます。僕も日々戦々恐々としながら新聞やテレビ、ネットで情報を集めまくる毎日です。実際にエネルギー関連の記事は見かけない日の方が少ないので、それだけ激動の時代にあることが感じ取れると言うものです。
今日ご紹介するのは大まかな日本国内の動向です。まずは国全体のエネルギー消費について。エネルギー白書2019では最終エネルギー消費とGDPの推移を比較した以下のようなグラフがあります。
出典:エネルギー白書2019
これを見るとオイルショックのあった1973年、1979年の直後はエネルギー消費が落ちていることが分かります。これはオイルショクの直後に石油節約運動や省エネブームがあった事が原因です。また、2008年はリーマンショックに伴って経済が縮小したことが主な要因となり、エネルギー消費もガクッと落ち込んでいます。ここまではエネルギー消費とGDPの間に一定の相関関係を見て取る事ができます。このまま2010年から再び上昇に転じるかと思われましたが、東日本大震災の発生によって再びエネルギー消費が落ち込みます。そしてこれ以降はエネルギー消費は一貫して下落傾向にあるにも関わらず、GDPは伸びつつけているので、両者の相関関係は無くなりました。
研究者の中にはエネルギー消費の減少は人口減少によるものだと言う人もいますが、総人口のピークは2008年で生産年齢人口のピークは1995年ですので、人口とエネルギー消費の関連性については議論の余地があるのではないか、というのが僕の見解です。もちろん日本が人口減少社会に転じた事で、エネルギー消費がこれ以上増える余地が少なくなったことはあるでしょう。なおグラフの最後、2017年に関しては厳冬の影響でエネルギー消費は増加しています。
このように、日本においては経済成長とエネルギー消費の削減が両立できている事を示唆するデータがあり、いわゆるデカップリング(経済成長しつつ、エネルギー消費を減らす)の傾向が見え始めています。デカップリングは既にドイツではその傾向が顕著になっており、省エネや再エネの導入が増えれば、今後さらにこの傾向は強まると考えられます。ただ日本でここ数年デカップリングの傾向が見て取れるのは、東日本大震災以降、節電志向が長く続いている事も遠因となっていると思われますので、今後の動向については注意深く見守る必要があります。
さて、エネルギー消費に関連して電力供給に関する事で興味深い話があります。2018年5月20日10時から12時の二時間、四国電力の再生可能エネルギー供給割合が電力需要に対して最大100%以上に達したというのです。また九州電力でも2018年5月3日12時台に再生可能エネルギー比率が最大96%に達しました。
ここから生まれるのは、日本で再エネを主力電源にできるという確かな実感です。特に四国電力ではでVRE(=変動制再生可能エネルギー……太陽光・風力発電など天候によって左右される電源)の割合がこの二時間で79%、九州電力でも84%に達しています。安定性の低いVREですが、VRE以外の水力、地熱、バイオマスなどの再エネ電源をうまく組み合わせることができれば、常時再エネの供給割合100%というのも夢物語とではないと言えるのではないでしょうか。
もちろん、再エネについてはまだまだ多くの課題が残っている事は忘れてはなりません。ベースロード電源されている再エネ電源でいうと、地熱は温泉施設などとの利害調整、水力は既に日本では大規模なものは作れる場所はない事が問題として挙げられます。さらにその他の再エネも、バイオマスなどは特にコスト面に問題がありますし、電力需給システム自体にも克服すべき課題が山積しています。加えてVREの変動率を少しでも下げ、再生可能エネルギーの発電割合を高めるためには蓄電池などの技術の導入は不可欠なため、まだまだ道のりは長いと思われます。
今回は日本で経済成長とエネルギー消費のデカップリングが起こり始めている事、再エネを主力電源化できる確かな可能性が見えてきている事をご紹介してみました。なんとなく夢がある分野だと思っていただけたでしょうか? 日本ではまだまだ注目度が低く、ヨーロッパ諸国にも後れをとっているエネルギー分野ですが、確実に未来に向けて変化が起こりつつあります。今後も定期的に最新の動向についてまとめて、エネルギー分野に関する知識を皆様に共有していきたいと思います。そんな中で少しでもエネルギー分野に興味を持って頂き、この分野からの地域づくりについて考える方が増えてくれると嬉しいと思う次第です。
参考文献等
・「四国電力で自然エネルギー100%超・九州電力で太陽光発電が80%超(速報)」2018年8月10日付 環境エネルギー政策研究所記事
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