脱炭素社会へ

 実は僕の専門は環境系です。大学では自分たちの周りに広がっている様々な環境とどのように共生していくのか、その方法や理論を学んでいます。その中で、地球温暖化について少し深堀し調べる機会があったので、今回はそれについてのお話です。少し長丁場になりますがお付き合いください。

 まずは地球温暖化の現状と、今後百年間の予想です。下の写真は西暦700年から2100年までの気温変化の観測と予測が載っています。右側の濃い赤色になっている部分が今後の予測なのですが、今後100年足らずで急激な温度上昇が予想されていることが分かると思います。地球温暖化に懐疑的な人の中には地球の歴史上、今よりももっと温暖な時期はあったため、今回の温暖化も大して大騒ぎする必要はないと言います。確かにその通りですが、これは太陽の活動や大陸の移動による海流の変化などの自然要因によるものであり、5000年かけて4度~7度の気温上昇といったレベルです。現在のように百年で何度も平均気温が上がっていくといった上昇率とは全く異なり、現在の地球温暖化は明らかに人間がもたらしたものといえます。また地球温暖化を進めている温室効果ガスのうち、6割が二酸化炭素によるものと言われており、人間が発電や日々の生活の中で大量に排出しているだけに、脱炭素社会へ向けて待ったなしの現状なのです。

出展:全国地球温暖化防止活動推進センター www.jccca.org/chart/chart02_02.html

 

 こうした現状を踏まえ2015年に合意されたパリ協定では今世紀後半にも温室効果ガスの排出量をゼロにする事が目標に掲げられ、世界は低炭素社会から脱炭素社会へと目を向け始めました。少し前にNHKスペシャルの「脱炭素社会の衝撃」という番組の中で紹介されて話題になっていたのでご存じの方も多いと思いますが、世界の機関投資家はこのパリ協定を起点に、脱炭素を表明している企業への投資に転換し始めています。石油産業で財を成したロックフェラーのファンドですら化石燃料からの投資撤退を表明しており、世界銀行も石油や天然ガス開発に融資をしない方針を明らかにしているのです。こうした背景には、様々な企業が二酸化炭素の排出を経営リスクとして受け止められるようになったことが大きく関係しています。例えば保険会社は、今後さらに地球温暖化が深刻化すると、異常気象や病気が蔓延する可能性がある事から、いずれ保険の適用が不可能になるのではないかと危惧しています。またその他の企業にとっても、温暖化による異常気象で店舗の損害や社員などの人的損失も考えると、将来大きな経済的損失を被る可能性が高いと判断し、長期的視点から企業の生き残りをかけて、脱炭素戦略へと転換し始めているのです。


 では世界各国の政策はどうなっているのでしょうか。おそらく多くの人が日本の事を環境先進国と考えていると思いますが、既に日本は中国やヨーロッパ諸国に大きく遅れてをとっていると言っても過言ではない状況に陥っています。例えば中国の取り組みです。日本では環境汚染などでイメージの悪い中国ですが、最近は環境問題に積極的に取り組む姿勢を見せており、習近平国家主席自らが「エコ文明」を掲げ、世界の地球温暖化対策をリードしていく姿勢を鮮明に打ち出しています。実際に老朽化した火力発電所の取り壊しや新たな石炭火力発電所の建設計画を停止、さらには電気自動車を一定の割合で販売する事を義務付けるなど、日本よりも先駆けて様々な環境政策を打ち出しています。メガソーラー発電計画も進んでおり、中国は今や世界で最も再生可能エネルギーの普及速度の速い国です。また、ヨーロッパ諸国は元々地球温暖化に対して他の地域よりも積極的と言われており、イギリスやフランスは2040年以降のガソリン車の販売を禁止しています。 また北欧諸国の中には既に電力の半分近くを再生可能エネルギーで賄っている国もあります。

 ではもう少し分かりやすく、今回は電気自動車に注目して中国の取り組みを紹介します。中国では電気自動車の購入に当たって自動車取得税と消費税が免除され、購入補助金も支給されます。一台当たりの支給額は日本円にして2016年時点で56~96万円ほどだそうです。この金額は世界でノルウェーに次いで二番目に大きく、さらに北京や上海などの大都市では市独自に購入補助を行っており、これらを合わせると最大160万円が一台につき支給されることになります。これに対して日本では、補助金の支給額が最大60万円で(調査不足なので違っていたらご指摘ください)これにエコカー減税などが上乗せされる形です。しかし、エコカー減税についてはここ2年間、実質的な増税となているらしく、消費者の負担が増しているのが現状です。

 

 最後に、日本の脱炭素への遅れを示唆するものとして環境グズネッツ曲線を上げたいと思います。環境グズネッツ曲線とは横軸に1人当たり平均所得を取り、縦軸に環境汚染の程度を取るった表に現れる逆U字型の曲線の事です。1人当たりの所得増加につれて、初めは汚染が増大しますが所得水準の向上につれ、環境規制の技術や制度が整い、人々が環境をより重視するようになるので、経済活動が活発になっても環境汚染が相対的に減少するという仮説です。

出展:日本総合研究所 https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/10176.pdf

 見て頂くと分かりますが先進国ではその仮説通りに、一人当たりのGDPの増加に伴い逆U字型の曲線を描き、一人当たりの二酸化炭素排出量が減少しています。しかし日本は一度排出量が減少したかに思えた後、再度上昇に転じています。それに対して中国は他の先進国の技術を取り入れることができる利点などもあり、早い段階で排出量がピークアウトしており、今後日本のように再度上昇する可能性は国家体制や再生可能エネルギーの普及状況などから考えると低いと考えられています。環境グズネッツ曲線はその妥当性について議論の余地があると言われているため、はっきりとしたことは言えませんが、僕は日本が環境汚染対策の面で遅れている事を示唆する一つの根拠になりうると思います。

 実際に日本の政策の良く批判されているものを取り上げると、脱炭素の流れに逆行するような施策が目立ちます。そ先ほど中国は火力発電所の増設をストップしたと紹介しましたが、日本は40基以上の増設計画があり、高効率火力発電所の輸出計画もあります。再生可能エネルギーの普及や脱炭素に向けた様々な取り組みを日本政府も歌ってはいますが、矛盾した政策が混在しているのが現状と言わざるを得ません。


  仮に徹底的な省エネや再生エネルギーの普及に着手した場合、日本が目標としている2050年に二酸化炭素排出量を80%削減する事は可能と言われています。実現に向けては、長期的視点に立った消費者・企業の自発的な行動変革が必要であり、それを促進するためには行政が先駆的な施策を講じることが不可欠だと思います。日本は環境先進国であるという認識は時代遅れになりつつあります。早急に今の政策を見直し、パリ協定の合意に向けて日本が提唱していたボトムアップ方式を再度国内でも実行し、国民一人一人や地方自治体レベルから脱炭素に向けた取り組みを進めていかなければならないのではないでしょうか。

[R]

地域学・どっと・こむ

金沢大学地域創造学類にて地域づくりについて本気で学ぶ現役大学生です。発展途上のサイトでまだまだ試行錯誤しながらですが、月に数本のコラムを投稿し、地域について考えるきっかけやアイディアが生まれるきっかけを創っています!

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