地域にとってより良いエネルギーとは…?

 学部三年生になって毎日のように考えている事。それは「地域にとってより良いエネルギーの在り方とは何なのか」という事です。四年生まで三ヶ月を切る今、卒業研究にもかかわってくる事なので、そろそろ一つの結論を導き出したいところですが、調べれば調べるほど分からなくなるのが世の常。一つの解というものが存在しない問題であるだけに、苦労は絶えません。

 今回はそんな僕の悩みを皆さんと共有したいと思います。皆さんもこれを読んで、より良い地域のために、地域社会や国際社会の持続的発展のために、エネルギーという視点から一緒に考えてみませんか……? φ(..)

~地域づくりと環境の結合、地域エネルギー自治~

 僕が日本のエネルギー政策に興味を持ち始めたのは学部二年の冬が終わった、2019年3月頃でした。二年生になる前から一年近くくすぶり続けていた「地域づくりと環境問題を結び付けて解決したい」という想いが「エネルギー」という形で結合したのがこの頃です。当時、再エネに関連する情報を調べる中で、「地域エネルギー自治」や「地域エネルギー政策」の存在を知り、エネルギーに関わる様々な事が地域経済とも密接に結びついているとの着想を得たのがきっかけでした。

 研究開始当初、再エネに関する情報を集めていたこともあって、「地域にとってより良い電源は再エネである」というのが僕の解でした。化石燃料やウラン燃料などと違って、再エネは純国産であり、都市部よりも地方のほうが立地できる場所も多いため、都市から地方へ資金が流入する経済構造を作ることができるのではないか、と考えたためです。また再エネ電源のほうが地域での雇用創出効果が高いという研究も存在しており、地域経済の活性化や雇用の創出という面でも願ったりかなったりだと思っていました。再エネの導入推進こそ、地域にとってより良いエネルギーの在り方であると考えていたのです。


 ところが、僕はこの考えに次第に自信が持てなくなっていきます。「地域エネルギー自治とは②」のコラムで詳述しますが、地域エネルギー自治というのはそもそも再エネの推進を目的としたものではありません。地域にとってより良い電源が原発や火力発電所だ、と地域住民が意思決定したのであれば、それはその地域のより良いエネルギーの在り方として確立するのです。

 加えて、再エネの中でも太陽光や風力といった変動性再エネ(以下、VER)は、発電量を天候に大きく左右されるため、安定した電力供給に不向きです。こうした問題を解決するために蓄電池を導入するための研究等が進んではいますが、未だ実用段階とは言えないのが現状です。さらに言えば、太陽光パネルや風力発電のための機器は多くの場合域外から購入せざるを得ません。すると購入のための費用として域外に資金が流出してしまうという事にもなりかねないのです。


~浮かび上がる様々な課題~

 かといって火力発電は環境に悪影響を及ぼしますし、中東の政治情勢を考えれば化石燃料依存のエネルギーの在り方というのはリスクが高いと考えざるを得ません。一応、化石燃料の中でもLNGであれば、主要産出国もアメリカやロシアなど中東以外にありますし、二酸化炭素排出量も減らすことができます。ただし、ロシアも政治的な問題がありますし、LNGは現状ミドル電源に位置付けられており、ベースロード電源に比べてコストパフォーマンスに課題が残ります。原子力発電は、政府の試算を信じるならば、非常に安価であり、ウラン生産国も中東以外にありますので、日本のエネルギー安全保障に資する電源といえます。しかし、ひとたび事故が起これば、他の電源ではありえないほどの、甚大な被害を地域にもたらします。一度事故が起こればその後何十年もその地域に帰れなくなるというのは地域にとっては看過しがたい問題でしょう。

 一方再エネの側にも技術的な課題を中心に、様々な問題があります。再エネの中でも、ベースロード電源という安定して安価に電力供給が可能な電源に分類される大規模水力発電は、新規立地が可能な場所が国内ではほとんど残されていないと言われています。同じく地熱発電も有望なベースロード電源ですが、温泉観光地との利害関係や、立地に適当と考えられる場所の多くが国定公園に指定されているなど、様々な問題が横たわっています。日本の広い沿岸部を利用した洋上風力発電は、陸上風力よりも安定した電力量を確保できるため注目されつつありますが、こちらも海運業や漁業権との兼ね合いなど、課題は山積みです。他にベースロード電源として期待されている再エネに、海水と淡水の塩分濃度差を利用する浸透圧発電もありますが、これは研究途上の技術であり、実用段階まではまだ数年から十年の年月を要します。

 こうして、今の僕は上の写真のように頭を抱えて「あ~~~~」っとうなる毎日を迎えるわけです。調べれば調べるほど、様々な解が目の前に現れては消えていきます。結局地域にとってより良いエネルギーの在り方は、地域ごとに住民自らの意思で決定づけられるべきものであるとしか言いようがありません。これは確かに「地域エネルギー自治的」ですし、無難で、いかにもな解です。しかし、煮え切りません。こんな結論なら誰だって導き出せます。それに、そもそもエネルギー政策にかかわる国民的議論がほとんど起こっていない中で、地域住民が主体的に自分たちの地域のエネルギー政策の在り方を決めることなどできるのかといわれれば、大きな疑問を投げかけざるを得ないでしょう。


~では、どう考えればよいのか…?~

 そうはいっても、悩んでばかりいられないのも事実です。就活も本格化し始め、僕は就活で学生時代に頑張ったことの一つに卒業研究を挙げたいので、なんとか一つは解を、あるいは解に向かうための方向性を決めなければなりません。


 「地域にとってより良いエネルギーの在り方」を考えるうえでまず基本となるのがS+3Eという考え方です。S+3Eとは「安全性Safety」を基盤とし、「環境保全Environment」、「経済性Economic Efficiency」、「エネルギーの安定供給Energy Security」をバランスよく成り立たせるという考え方で、エネルギー政策の基本となる概念です。地域のエネルギーについて考える際も、その土台となるのはこの概念です。

 問題はこの上に何を積み上げていくか、です。ありがたいことに、地域にとってのエネルギーを考えるうえでS+3Eはだれも疑いようのない基盤となってくれます。しかし、これは基本中の基本であり、大前提の事。この基盤の上に、どのようにして自分の考えを構築していくかがこれからの問題です。

 僕としては「地域エネルギー自治」の原動力でもある「地域経済の活性化」と「環境問題への貢献」を積み上げたいところです。S+3Eという支柱に支えられた「社会」という板の上に、「地域経済の活性化」と「環境問題への貢献」をバランスよく載せる、というイメージでしょうか。地域によって、どちらをより重くするかはそれぞれですが、どちらかに傾き過ぎないよう、その位置を住民自らが調整する。このバランス調整の過程こそ、地域エネルギー自治であり、「地域にとってより良いエネルギーの在り方」を考える行為に他ならないと言えるでしょう。


 こうして書いていくと、漠然とした方向性が見えてきました。これからは、これをより具体的にするために、より詳細な情報収集とその分析を行っていく段階に入ります。正直なところ終わりは見えません。ですが、僕にとってはこうして地域のために何が最善なのかを考える事は生き甲斐のようなものですし、本当に楽しいと思えることでもあります。

 環境と地域。今最も熱いこの分野で研究が出来ていることは、幸せなことです。最後まであきらめず、本気で取り組んで、何らかの解を導き出したいですね。

地域学・どっと・こむ

金沢大学地域創造学類にて地域づくりについて本気で学ぶ現役大学生です。発展途上のサイトでまだまだ試行錯誤しながらですが、月に数本のコラムを投稿し、地域について考えるきっかけやアイディアが生まれるきっかけを創っています!

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